大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和22年(行)4号 判決

原告 近畿日本鉄道株式会社 外十二名

被告 国 外一名

訴訟代理人 堀川嘉夫

主文

一、原告等の訴のうち、被告高安村農業委員会に対し「政府の買収」の取消をもとめる訴および被告両名に対し「政府の買収」買収計画の「公告」「承認」の無効なることの確認をもとめる訴を却下する。

二、原告近畿日本鉄道株式会社のその余の訴のうち、大阪府中河内郡高安村大字千塚一〇四番地、八九番地の一、三四一番地の一、同津大字水越一一四番地、一二七番地、五九八番地、五九九番地、同村大字山畑一一七番地、一二〇番地の一各土地に関する訴をすべて却下する。

三、原告等のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は「被告高安村農地委員会が自作農創設特別措置法にもとずき別紙物件表記載の土地について定めた買収計画およびその買収計画にもとずく政府の買収を取消す。被告両名は、右政府の買収の無効なること、ならびに、右の買収計画およびこれに関する公告、異議却下決定、裁決、承認買収令書の発行の無効なることを確認すべし。訴訟費用は各被告の負担とする」との判決をもとめ、被告等訴訟代理人は、まず原告等の訴のうち買収計画の取消をもとめる部分につき「原告等の訴を却下する。訴訟費用は原告等の負担とする」との判決をもとめ、つぎに本案について「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする」との判決をもとめた。(原告の請求原因事実及び被告の答弁等は、紙面の都合上、省略する。)

理由

一、自作法による農地の買収は、市町村農地委員会、都道府県農地委員会、都道府県知事の三つの行政庁によつてなされる一連の行為すなわち手続によつて行われるもので、まず市町村農地委員会が買収計画を定め、その旨を公告するとともに買収計画書を作成して縦覧に供し、所有者から異議の申立があるとこれに対する決定をし、その決定に対し訴願があると都道府県農地委員会はこれに対する裁決をし、その後市町村農地委員会からの申請によつて買収計画の承認をし、承認のあつた買収計画にもとずいて都道府県知事は買収令書を所有者に交付し、場合によつてはこれにかえてその内容を公告する。その買収令書の交付またはそれにかわる公告(以下単に買収令書の交付という)があると、その農地について国が所有権を取得し従来の所有者の所有権が消滅する等買収の法律効果が発生することになるわけである。買収令書の交付があると右の法律効果が発生し、その交付のないうちはその法律効果は発生しない。そこで右の法律効果は買収令書の交付によつて発生するといつてもよい。(それで以下買収令書の交付を適当に買収処分という。)ところで、右の法律効果が発生するためには、右の一連の行為がすべて法律のこれについての規定に適合して、すなわち適法になされていなければならない。いずれかの行為が違法であれば買収処分があつても右の法律効果が発生しないという意味で買収処分の違法というならば、それまでの各行為の違法はすべて買収処分を違法にする。すなわち、前の行為の違法をすべて買収処分が承継するということができるが買収令書の交付だけで独立して法律効果を発生させるものでないことの表現である。

さて、通常の民事訴訟において訴訟の目的が直接に現在の権利または法律関係の存否でなければならないのに対して、行政処分の取消をもとめまたはその無効の確定をもとめる訴訟においては行政処分の効力の存否が訴訟の目的となつているのであるが、しかし、実質的には結局その行政処分によつて発生消滅または変動する一定の権利または法律関係の確定がもとめられているものと考えてよい。この点からいつて、訴訟の目的たりうる行政処分はその効力の確定が、一定の権利または法律関係を直接確定するに適したものでなければならない。

そこで、これを自作法による農地買収の手続についてみると、その手続は農地の所有権の得喪とこれに附随した一連の権利の得喪という一定の法律効果に向けられた手続であつて、その手続の効力を争うことは結局実質的には右の一定の法律効果を争うことにほかならない。これを訴をもつて争う場合右の手続のうちのどの行為を行政処分としてとらえて、その効力について争うのが適当したがつて適法かといえば、買収令書の交付がこれに当ることは前にのべたところによつて明らかである。その効力が否定されることは、すなわち全手続による法律効果が否定されることであるし、そのためには手続上の各行為の適否はすべて判断を受けることになること前にのべた通りである。

買収処分のある前に、その前段階の各行為をいちいち訴訟の目的とすることは、その手続による法律効果がまだ発生する段階にいたつていないのに先走つて小きざみに、法律効果としてこれから発生すると考えられる権利の変動を争うことになり、訴訟の実質的な目的である権利ないし法律関係がまだ可能の状態にあつて現実化していないことからいつても、また、それらの各行為の効力が(たとへば有効と)確定されても、直ちに買収の法律効果が(たとえば有効と)確定されるものでないことから考えても、前に民事訴訟の原則と対比して述べたところからいつて、一般に適当でなく、いまだ訴の目的とするに熟していないものといわねばならない。また、買収処分のあつた後は、買収処分の効力を争えば足り、各行為の効力を独立して確定する必要がないし、確定したところで、直ちに買収の効果を確定するに足りないこと右にのべた通りである。

ただ、買収計画は右の点で例外的な地位をもつ。上記の民事訴訟の原則は、裁判制度が社会の法律生活の必要に対し一定の限度で利用に応ずるその対応の仕方を形式化したもので、裁判制度を利用するに足る必要の程度を限定した形式である。その形式からもれても、必要としてはその形式に適合した場合と異らない場合もでてくるわけであつて、法律は各個にそれらをひろいあげて訴の目的とすることができる規定をおいてこれに対処しているが(たとえば文書真否確認の訴訟)法律の特別の規定のない場合にも理論的に測定して訴の目的とする必要のある場合にこれをみとめることが、制度の趣旨に合うものといわねばならない。これを買収計画についていうと、農地買収手続においては、買収計画がその中核をなし、その後の行為はその実現の過程である点から、自作法はとくにこれに対してその段階で異議の申立および訴願をすることをみとめており(かえつて買収処分に対しては異議の申立および訴願をみとめていない)、買収計画はその公告によつて、農地の権利者に現状維持の義務を生じさせるという附随的であるが独立した法律効果をもつている点を別にしても、買収手続の基本をなすところから考えて独立して訴の目的とすることをゆるすのが法の趣旨に合致するものということができる。そして、買収計画に対する異議の申立に対する決定および訴願に対する裁決は、買収手続におけるいわば副次的な過程で、買収計画そのものに附随した行政的救済の手続である。したがつて買収計画が訴の目的とすることができる以上、いわばその延長として、これらの処分も訴の目的とすることができるといわねばならない。

二、原告が本訴で請求の趣旨として、無効の宣言なり確認なりをもとめているものを数えると、本件土地についての「政府の買収」と、「買収計画」とその「公告」と、買収計画に対する「異議の申立を却下した決定」と「訴願を棄却した裁決」と「承認」と、「買収令書の発行」とである。

そのうち、訴の目的として、「買収計画」と「異議の申立を却下した決定」と「訴願を棄却した裁決」とが一応適法なこと、「公告」と「承認」とが不適法なことは上に述べたところから明らかである。

「政府の買収」については、原告は買収手続のうち、買収計画から承認までの過程に、通じて一の行政処分を観念し、これを政府の買収とよぶ。しかし、訴訟で買収手続の法律効果を行政処分の効力として争う場合、買収処分の効力を訴の目的として争えば足り、買収計画(およびこれに関する異議についての決定と訴願に対する裁決)は別として、買収手続上のその他の行為の効力を特に訴の目的とすることの不適当で許されないことは上に述べた通りであり、まして、買収計画をふくむ承認までの過程について、総括的な一の行政処分を観念して、その効力を訴の目的とするというようなことは、無意味な重複を重ねるだけのことで、とうてい許されるところではない。従つて、本訴のうちこの部分も不適法として却下をまぬがれない。「買収令書の発行」について、原告はこれを買収令書の交付とは別に考えているようでもあり、買収処分は買収令書を作成しそしてこれを交付するわけであるが、意思表示たる行政処分として買収処分(買収令書の交付)は、買収令書の作成とその交付を含む一の行政処分で、作成の部分だけきりはなして別個の行政処分と考えるべきではない。原告は買収処分のうち買収令書の作成の点に重きをおいたため、これを切りはなして「買収令書の発行」としたものであるが、その趣旨は結局買収処分の効力を訴の目的としたものと考えられる。そして買収処分の効力が訴の目的として適法なことは上に述べた通りである。

三、被告委員会が、自作法にもとずき買収の時期を昭和二二年七月二日とするいわゆる第二回買収計画を定めるに当つて、原告等所有の本件土地(別紙第三物件表中の四八七番地の一の土地および第四物件表中の九二九番地の土地を除く)について、昭和二二年四月三〇日農地買収計画を定め、翌五月一日その公告をし、原告等から同月九日異議の申立をしたのに対して、同月二三日異議の申立を却下する決定をし、原告がさらに同年六月九日大阪府農地委員会に訴願をし、同委員会が同月三〇日訴願を棄却する裁決をするとともに、右買収計画の承認をしたことその後大阪府知事が、右買収計画にもとずいて、原告等に買収令書を交付したことは、いずれも当事者間に争がない。

(一)  被告等は、原告等の訴のうち、買収計画の取消をもとめる部分を、その出訴期間経過後に提起された不適法な訴であると主張し、その出訴期間を、原告等が買収計画を知つた時から起算するのであるが、行政事件訴訟特例法の施行前にあつても、買収計画の取消をもとめる訴の出訴期間は、その買収計画について適法な訴願がなされた場合にその訴願に対する裁決について裁定書謄本の送達あるまでは進行しないと解すべきである。そして原告等は本件訴願の裁決書謄本が原告等に送達せられたのは昭和二一年一二月初頃と主張し、被告等もこれを明かに争わないのであるから同年一二月三一日に提起された本訴は、六ケ月の出訴期間内に提起された訴であること明らかであり、この点については適法な訴といわねばならない。

(二)  原告稲田喜三郎所有の別紙第三物件表中の高安村大字服部川四八七番地の一の土地と、原告中西末吉所有の別紙第四物件表中の高安村大字大窪九二九番地の土地との二筆については、成立に争のない乙第二号証(買収計画書)を参照しても、被告委員会が上記第二回買収計画として、これについて買収計画を定めた形跡がなく、その他右二筆の土地について原告等主張のような買収計画が定められ、これにもとずいて買収手続が行われたとみとめられる証拠はない。この二筆の土地についての右原告二名の請求はこの点ですでに失当として棄却するほかはない。

被告等の主張によれば、右のうち原告稲田喜三郎の分は、第一回買収計画においてすでに買収計画を定め、原告中西末吉の分については、その後第六回買収計画において買収計画を定めたというのであるが、右原告二名の本訴が、それらの買収計画ないしそれにもとずく買収手続を争う趣旨でないことは明らかである。

(三)  原告会社所有の主文第二項にかかげた九筆の土地については、上記の通りの経過で、買収令書の交付もあつたのであるが、いずれも各一筆のうちの一部の買収であり、買収計画書および買収計画令書にその買収部分を表示するに、面積のほか、買収部分を特定するに足る記載がなく、買収部分が特定されなかつたので、その点の違法を理由として、大阪府知事は昭和二七年二月五日買収処分を取消し、同日付の大阪府公報によつて公告するとともに原告会社にその取消の通知をし、被告高安村農業委員会は同月一三日買収計画を取消し、同日これを公告した。このことは、成立に争のない乙第二号証第一一号第一二号証、弁論の全趣旨からみて真正に成立したとみとめられる乙第一三号ない第一五号証によつてみとめることができる。

そうすると、右九筆の土地についての上記買収計画および買収処分は適法に取消されたものであり、買収計画および買収処分がこれによつてはじめから効力がなかつたことになつた現在、その取消の結果と同じ法律状態の確定を目的とする本訴は、結局もはやこれを維持して判決をもとめる利益を欠くにいたつたものというべきである。買収計画についての異議の申立を却下した決定および訴願を棄却した裁決についても、それらが買収計画の効力をはなれて意味のないものである以上同様である。

この点で、右九筆の土地についての原告会社の訴は、買収計画の取消をもとめ、また買収計画、これに対する異議申立を却下した決定、訴願を棄却した裁決および買収処分の無効の確認をもとめる部分についても、現在においてはすべて不適法として却下するほかはない。

四、そこで、以下、前項(二)および(三)の土地一一筆を除く本件土地(本件買収地)についての前記買収計画、異議却下決定、訴願棄却の裁決および買収処分の適否を検討しよう。

(一)  原告等は、被告委員会の買収計画が、これに先だつべき自作農創設事業の企画ないし事業認定なる行政行為を欠く故をもつて違法である旨の主張をするが、農地の買収については自作法がその目的、要件、手続および効果を定めており、市町村農地委員会(村委員会)はその規定にもとずいて買収計画をたてるのであり、自作法には、買収計画に先だつて原告等の主張するような自作農創設事業の企画とか事業認定とかの特別の行政行為を要求している形跡はない。自作法による農地改革を国家の一の事業とみて、原告の論述するような意味での企画をしいて指摘するとすれば、自作法自体がそれに当るといつてよい。ひとしく公用徴収の性質をもつものとして、自作法による農地の買収を土地収用法による土地の収用と対比できるとしても、農地の買収手続は自作法およびこれにもとずく命令の規定に詳細であつて、その間、土地収用法の手続規定を準用する余地はなく、事業の認定というような土地収用法に規定されているのと同一の手続上の行為が自作法による買収手続の中にも独立してなければならないというような関係はまつたくない。また、自作法により買収すべき農地が村委員会の区域ごとにせよ、とにかく集団をなしていなければならないというようなことは、少しも自作法の要求するところではない。買収すべき農地が散在しようが、村はずれなり、へんぴな場所にあろうが、その耕作者を小作関係から解放し、これによつて農民における前近代的人間関係の覆滅すなわち民主的傾向の促進をはかり、また農業生産力の発展を期待するという自作法の目的にとつては、少しも関係のないところである。村委員会が買収計画を定めるに当つて、自作法第三条第五項の場合とか、第五条第五号の場合とかのように、事実の確定のほかに裁量を用いなければならない場合があるが、その裁量などは、買収計画の具体化の過程であつてその行為たる判断の一部にすぎないし、これについての一般的な基準をあらかじめ定めておくことなどは、自作法の要求するところではない。

これらの点についての原告等の主張は自作法の誤解というほかはない。

(二)  本件買収地の大部分が高安耕地整理組合の地区内にあることは被告等においてもみとめるところである。

原告等は、耕地整理組合が認可によつて成立すれば、地区内の土地は現実には一たん組合の所有に帰し、各組合員の所有権は単なる公簿上の存在たるにすぎなくなり、各土地は特定性独立性を失い、工事の進行とともに各地はその存在を失うと主張するが、耕地整理法にもとずく耕地整理の過程における事実関係法律関係についての比喩的な表現としてはともかく、法律上は、耕地整理組合が設立されても、それだけで地区内の土地の所有権の帰属に変動があるわけではなく、各土地がその特定性独立性を失うわけでもない。工事の進行によつて、事業上土地の区劃に変動が生じ、境界がある程度不明確になることが多いであろうが、しかし、これによつて土地がその存在を失うというものではない。

原告はまた、国は耕地整理組合の組合員とならないから、地区内の土地を国が取得することは法の許さないところであると主張するが、国が組合員とならないとしても、自作法はこれと同様の関係にある土地区劃整理組合地区内の農地につき、原則としてこれを買収し得べきことを定めているのであり、同法による農地の買収はその売渡を予定し、買収した農地は通常遅滞なく小作農その他に売渡され、国はその間経過的一時的に所有者となるにすぎないところからみても、耕地整理との関係で、その地区内の土地を自作法によつて買収することができないと考える必要をみない。

なお、原告等は、買収計画に本件買収地を表示するに公簿上の地番反別をもつてしたことについて、上にのべた通り、耕地整理の関係で土地が特定性独立性ないし実在性を失つたとの見解のもとに、これを違法と主張するが、その然らざることは、前にのべたところで明らかである。

(三)  本件買収地が、買収計画の前後にわたり、従来から耕作の目的に供されてきていることは、原告の主張自体に、また証人荒木久一、北川正信、岡本茂次、阪井実太郎の各証言を綜合して明らかであるから、本件買収地は買収計画当時も自作法にいわゆる農地であつたといわねばならない。

原告等はこれについて、自作法第五条第五号によつて買収から除外すべきであつたと主張する。

しかし、検証の結果によれば本件買収地は、南北にのびた生駒山の西の山ずそから西方に展開する広い一帯の農地の中にあつて、附近には所どころ耕地にかこまれて点在する家屋があるほか、人家が近くまでたてこんできているということもなく、また、被告等が高安耕地整理組合地区内にあることをみとめる大字大窪、千塚、水越所在の本件買収地をふくむ一区劃内に、数条の道路線を区劃した跡が、耕地の畝の状態などからみとめられるほか、大字水越と千塚との境を流れる小川の両岸および川床がコンクリートでかためられ、その所どころが架橋を予定した形につくられている以外には、とくに耕地整理工事などを施した形跡はみとめられず、この点、右組合が整地とか区劃の整理などの工事を施すにいたらなかつたことは原告等も自らみとめるところであり、証人荒木久一の証言によつても、同組合が道路および右小川の護岸工事以上には工事を進めなかつたことが明らかである。

原告会社が電鉄会社であり、本件買収地がその経営路線の沿線にあることを考えると、原告会社が将来住宅地とする目的で別紙第一物件表の土地を所有し、その意図で前記耕地整理組合を設立したという点は一応推測することができるが、これに上記工事の進行程度を参照しても、上にのべた位置環境とも考え合せ、右の事情をもつて、本件買収地を自作法第五条第五号にいう近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地とみとめなければならないとは考えられない。

すなわち、本件買収地の多くが右のように宅地化の意図をもつた耕地整理組合の地区内にあり、地区内に耕地整理工事がいくらか行われているとしても、そのことは直ちに自作法第五条第五号の指定を必要とする理由にならないことは、同条第四号の規定と対比して明らかである。もし、右のような農地が第五条第五号により指定すべき土地にあたるとすれば、第四号にかかげる土地区劃整理を施行する土地は法律上当然農地買収から除外されていなければならないはずである。いうまでもなく、宅地化の意図が、耕地整理法による耕地整理については、あえて脱法的といわないとしても、かくれたる意図にすぎないのに対し、都市計画法第一二条第一項による土地区劃整理こそ、本来土地の宅地としての利用を増進する目的で行われるものであるからである。しかるに、右第五条第四号は、その土地区劃整理を施行する土地についても、当然農地買収から除外するものとはせず、その境域内でさらに知事の指定した区域内の土地だけを限つて除外することにしている。これと対比して、本件買収地のような耕地整理工事の施行地が、直ちに同条第五号で指定すべき土地に当るものといえないことは明らかである。

なお、原告等はこの点について、本件買収地が大阪都市部の東郊に当り公園住宅等の最適地であることをもあげているが、これについても、右第五条第四号が農地買収から除外されるためにさらに知事の区域指定を必要とする土地として、前記のように土地区劃整理を施行する土地をあげているほか、これとならんで、公園等の施設に関する都市計画事業に必要な土地をあげているところと対比すれば、前同様、都市とのその程度の場所的関係が、第五条第五号の指定を必要とする理由にならないことは明白である。

そして、本件買収地については、ほかに右第五条第五号の指定を必要とする事情はみとめられないので、上記の結論に達したわけである。

(四)  本件買収地を、買収計画当時、別紙物件表にそれぞれ小作人として記載した者が、各所有者たる原告等の承諾を得て耕作していたことは、証人北川正信、岡本茂次、阪井実太郎の証言によつてもみとめることができ、この点は原告等もその主張の間にみとめているところであつて、ただ道路敷とした部分が所有者に無断で耕作されていたというが、証人岡本茂次の証言によれば、道路敷に予定された部分が特にその点異例に扱われていたとはみとめられない。そして原告等は、耕作を認容していた関係を、一時的農耕のための使用貸借の性質をもつた関係であつたといい、上記証人等は賃料を支払つて賃借していたものである旨の証言をするのであるが、とにかく、使用貸借または賃貸借の関係が成立していたことは間違いがないとみとめられる。そうすれば、右証人等の証言によつて、右の耕作者等はいずれも、相当以前からひきつずいて右の土地を耕作してきている人達であることがみとめられるから、買収計画当時、所有者との関係が使用貸借になつていたにせよ、賃貸借であつたにせよ、本件買収地は、自作法にいう小作地であつたといわねばならない。たとえ、原告等主張のように、耕地整理の工事ができるまでの一時的な貸借であつたとしても、その点のさまたげとならない。

従つて、被告委員会が、右のうち、電鉄会社たる原告会社の所有地を、自作法第三条第五項第四号により、法人の所有する小作地たる農地として、買収することを相当とみとめ、その買収計画を定めたのは、その点に関しては適法であり、また、その他の原告が本件買収地のある高安村に住所を有しないことは原告等のみとめるところであるから、本件買収地のうち、それら原告の所有地を、自作法第三条第一項第一号により、いわゆる不在地主の所有する小作地たる農地として買収計画を定めたのも、その点については適法といわねばならない。

(五)  本件の買収計画書に、本件買収地の面積として、土地台帳に記載された面積を記載していることは当事者間に争がなく、原告等はこの点を違法と主張し、また買収計画に定めた対価が著しく低額であることを違法と主張するが、まず対価の点をいえば、対価については、自作法はその第一四条で、別に対価増額の訴について規定し、買収計画なり買収処分のその他の点と区別し、対価の額の不当は、買収計画なり買収処分のその他の点の効力に影響を及ぼさないものとしている趣旨が明らかであるから、対価の額の不当を理由に、買収計画、買収処分について対価以外の点の効力の取消なり無効確認をもとめる原告の請求は理由がないとしなければならない。そして、買収計画書や買収令書に農地の面積を記載するのは、その所在、地番、地目の記載と相まつて、農地を特定して指示するための一標識たるにすぎない。そのためには、一筆全部の買収であるかぎり、自作法第一〇条本文の規定する通り、土地台帳に登録した地積を記載すれば足りる。それによつて、何も、その土地の面積を確定しようというわけではない。面積が対価に影響する関係においては、それは対価の額に対する不服の根拠として主張すれば足り、買収計画書、買収令書における面積の記載にかかわりなく、その主張をすればよいわけである。

五、(一) 市町村農地委員会が農地買収計画を定めるには、買収すべき農地と買収の時期と対価とを定めなければならない。そして、買収計画を定めたときは、遅滞なく、買収計画を定めたことを市役所または町村役場の掲示場に掲示して公告し、また、(1) 買収すべき農地の所有者の氏名または名称および住所、(2) 買収すべき農地の所在、地番、地目および面積、(3) 対価、(4) 買収の時期を記載した書類(買収計画書)を作つて、右の公告の日から十日間、市役所または町村役場でこれを縦観に供しなければならない(自作法第六条同法施行令第三七条)。

ところで、買収計画の右記載事項はいずれも、委員会が買収計画として、買収すべき農地と買収の時期と対価と(買収計画事項)を定めたならば、当然すでに明らかになつているべきところを記載するだけのことである。買収計画書記載事項のうち、所有者関係の事項が自作法第六条に買収計画事項としてあげられていないのは、買収計画事項の方は、委員会の決定の結果たる事項をあげているだけで、そのほかに、決定にいたる判断過程で、当然経過すべき決定の理由とか事実認定の点まではとくにあらためて同条に規定するまでもないこととしているのであり、所有者が何人でその住所がどこにあるかというような事実認定は、買収要件をあてはめ買収すべき農地を決定する過程で当然明らかにされていなければならない事項である。だから、買収計画書記載事項の中には、買収計画事項の決定をするほかに、別に委員会が議決しておかねばならないような事項はない。買収計画書に上記記載事項について記載があり、委員会が買収計画を定めたことが明らかになれば、委員会は買収計画書に記載された事項を決定し、明らかにしたものと、まず、みるべきである。

また、右の買収計画書には自作法によつて上記(1) ないし(4) の事項を記載することが要求されているだけで、委員会が買収計画を定めるについて行つたその他の判断事項や委員会の何時の会議で決定されたかなどを記載したり、委員が署名したりすることは必要とされていないし、なお、右の意味の買収計画以外に、村委員会が買収計画の内容を記載した書類を作成することは法律上少しも必要ではない。

つぎに上記の公告は、農地買収計画を定めたということが明らかになる文言を掲示すれば足り、(例えば、場合によつて、買収計画書の縦覧の期間と場所とだけを掲示したような場合でも、これによつて買収計画を定めたことが明らかにみとめられるかぎり、右の公告としてはそれで足りるということができる)買収計画の内容は、買収計画書の縦覧によつてわかるようになつているから、公告には以上のほか、買収計画の内容にわたつた掲示をすることは自作法の要求するところではない。

また公告は、買収計画書を作成して、縦覧に供する行為とともに、委員会の決定(買収計画)を外部に表示する行為で、買収計画を定めたならばその事後の処理として法律上当然行わなければならない行為でもあつて、この種の事務は、委員会を代表し会務を総理する会長の行つてよいことであり、あらためてそのために、委員会の議決などを必要とするものではない。公告の体裁も、委員会の公告であることがわかれば足り、この場合、委員会の名でしてもよく、会長の名でしてもよい。

なお、農地委員会の会議については、会長が議事録を作つて縦覧に供しなければならない(農地調整法第一五条の一一第四項)。議事録は議事の経過を証明するための文書であるが、議事の経過なり内容なりは、議事録によつてのみ証明されなければならないものではなく、議事録に議決の結果のみ記載されていて、内容の詳細や議決の理由、審議の内容などの記載がないとしても、直ちにその点の審議なり議決がなかつたとしなければならないものではない。

そこで、成立に争のない乙第一号証の一ないし三(議事録)第二号証(買収計画書)を総合すれば、被告委員会が本件買収地について、上記の買収計画事項を決定して農地買収計画を定め、これに従つて前記必要記載事項を記載した買収計画書を作成したことをみとめることができ、また、成立に争のない乙第一〇号証(公示の控)によれば、被告委員会が、「公示」と題し、被告委員会が第二回買収計画を樹立決定した旨を記載した、「高安村農地委員会 会長川村和三郎」名義の文書を高安村役場に掲示して買収計画を定めたことを公告し、公告の日から十日間右の買収計画書を右役場において縦覧に供したことをみとめることができる。従つて、これによつて本件買収地に対する農地買収計画は適法に決定され、適法にその旨の公告がなされ、適法に買収計画書が縦観に供せられたものといわねばならない。

これらを違法とする原告等の主張が理由のないことは上に述べたところによつて明らかである。

(二) 村委員会が買収計画についての異議の申立について決定をしたときは、遅滞なく決定書をつくり、その謄本を申立人に送付しなければならない(自作法施行規則第四条第一項)。

また、都道府県農地委員会(府委員会)は、買収計画についての訴願に対し裁決したときは、遅滞なく、裁定書をつくりその謄本を訴願人に送付しなければならない(同条第二項)。

右決定書、裁定書の作成およびその謄本の作成送付は、前に買収計画の公告についてのべたところと同様、委員会の会長が会の代表者会務の総理者として行つてよいことであつて、決定書、裁決書には、委員会で議決された決定、裁決の主文と理由が、委員会の議決したものとして記載してあれば、委員会名義で作成されていても、会長名義で作成されていても、作成名義の点については、とくに法令に特別の規定もなく、どちらでもさしつかえはない。また決定書、裁定書を会長が作成するのは、その議決のあつた会議の議長として作成するものではないから、会長が会議に欠席して議決に関与しなかつた場合でも、会長がその議決に従つて決定書裁定書を作成すべき関係はかわらないし、その時の議長なり立会の書記なりの報告に基いて作成すれば、事実上作成できないということもない。

被告委員会が、原告等の異議の申立に対し、昭和二二年五月一五日の会議において、これを却下する決定をし、同月二三日付「高安村農地委員会 会長川村和三郎」名義で、被告委員会が原告等の異議を却下する旨とその理由を記載した決定書をつくつたことは、成立に争のない乙第四号証の一、二(被告委員会の昭和二二年五月一五日の会議の議事録の最初の一枚と、その議事録の二枚目以下が、議事録を作成編冊して備付けた後に紛失した旨および同日の会議で異議を却下する議決のあつた旨の委員九名および書記の証明書)および第五号証の一、二(原告等に対する「異議申立に対する決定通知書」と題する文書)によつてみとめることができ、その決定書の謄本が原告等に送付されたことは、原告等のみとめるところである。

また、大阪府農地委員会が、原告等の訴願を棄却した裁決についで、大阪府農地委員会長大阪府知事赤間文三名儀で、その裁決の主文と理由を記載した裁定書をつくつたことは、成立に争のない甲第一号証(議事録)と真正に成立したとみとむべき乙第七号証の一、二(裁決書)によつてみとめることができ、その謄本が原告等に送付されたことは、原告等のみとめるところである。

右決定書、裁定書を会長が作成し、また、会長名儀で作成したことを違法とする原告等の主張の当らないことは上に述べた通りであり、各委員会の決定書裁定書として欠けるところがない。

原告等はまた、右の裁定書に記載した理由は、会長の作文であつて、委員会が審議し議決したところでないと主張するが、委員会の裁決の結果を表明するものとして裁定書が適法な権限にもとずいて作成されておれば、反対の事実がみとめられないかぎり、その裁決の理由として記載されているところは、委員会が裁決の理由としたところを記載したものとみとむべきであつて、本件においては、とくにこれに反する事実があつたとみとむべき証拠はない。議事録に裁決の結論(主文)のみ記録されていて、その理由の記載がないとしても、議事録の記載としては、むしろ通常のことというべきであつて、それによつて、裁決の理由についての審議がなかつたということはできない。

従つて、被告委員会および大阪府農地委員会の上記決定および裁決は、いずれも適法に行われたとみとめるほかはない。

(三) 村委員会の定めた農地買収計画に対し、府委員会の行う承認は、農地買収手続の過程において、買収計画にもとずいて知事が行う買収処分に先行すべき行為であつて、右の承認があつても、村委員会としてはもはや別に何もすることはない。ただ、買収計画を定める村委員会と、その承認を行う府委員会と、買収処分を行う知事とは、それぞれ別な行政庁であり、買収手続が買収計画、承認、買収処分と進展するためには、右の三つの行政庁の間でその間の連絡が事実上必要であるが、それは行政庁が適宜に処理すべき相互の連絡の問題であつて、適当に連絡さえ行われれば、どのように行われてもかまわないわけである。自作法第八条は、農地買収計画について訴願の提起があつた場合に、「裁決があつたときは、市町村農地委員会は遅滞なく当該農地買収計画について都道府県農地委員会の承認を受けなければならない」と規定しているので、承認は村委員会の申請によつて行われるということになるが、たとえば自作法第五条第五号によつて村委員会が農地買収から除外する土地の指定を行う場合に、府委員会の承認を得て行わなければならないという場合のように、村委員会がその承認によつて権限づけられ、その承認をまつて行為を行うという場合とちがい、農地買収手続の順序からいつて、農地買収計画についての承認は、村委員会を権限づけるのではなくて、買収処分を行う知事を権限づける行為である。従つて、承認を村委員会が「受ける」といつても、眼目は、府委員会に対し承認の対象たる買収計画を明らかにしその承認を促す点にあるわけであつて、承認があると買収手続は府委員会の手から、知事の手にうつることになつて、その間村委員会としては、上記連絡事務を別にして、ほかにすることはない。府委員会が承認の対象とするのは、村委員会の買収計画のうち、異議に対する決定および訴願の裁決等によつて取消されなかつた部分であるから、村委員会は承認の対象たるべきそのような買収計画が府委員会にわかるようにしてその承認を促せばよいわけで、そのために適当な連絡をすれば、時期方法は問う必要がない。自作法第八条は、裁決のあつたときは遅滞なく承認を受けなければならないといつているが、そこで真に裁決の後でなければ行つてはならないのは承認である。裁決を必ず承認の前に行うことは、裁決が自由な公正な立場で行われることを確保しようとする、訴願人の権利に関係する実質的な意味があるが、裁決と承認との右の前後関係が守られるかぎり、村委員会の承認の申請の時期までも、裁決の後でなければならないとする規定の趣旨とは考えられない。その申請を裁決の後にすれば簡明であろうが、前にのべた通り、その申請は行政庁の間の連絡の問題にすぎないので、どうしても裁決の後でなければならないとする必要はない。その申請の方法についても、法令に別段の定めはないので、自由に適当な方法によつてよいし、またその申請について村委員会の議決も必要ではなく、会長が適宜に処理すればよい。

府委員会の行う買収計画の承認は、その買収計画についての訴願に対する裁決のあつた後でなければならないことは右にのべた。しかし、法が両者を前後の関係においた実質的な意味は右にのべた通り、裁決の公正を期するところにあり、それは、二個の判断について判断の前後の関係を規定しているものであつて、裁決の議決が承認の議決の前に完了していることを要求しているにすぎない。裁決の効力が訴願人について発生するのは裁定書の謄本を送付したときであるが、その効力が発生することを承認の前提としなければならない論理的な必要も実質的な必要もない。承認は裁決の議決があれば、直ちに行つてよい。

府委員会が買収計画について承認の議決をした場合、承認書というような、書類を作成することはとくに要求されていない。前にのべた通り、その承認は村委員会について別に効力を生ずるというものではないので、村委員会に対する意思表示というような性質の行為ではない。府委員会の承認という議決が、議決として買収手続の中の一環たる意味をもつているのであつて、議決の後、承認のあつた買収計画を整理して、これにもとずいて知事が買収処分を行えるようにし、知事の買収処分を促す行為が必要であるが、それが行政庁の連絡の問題であることは上に述べた。そういう整理連絡のために、村委員会に対し承認の議決のあつたことが通知されるであろうが、その通知は意思表示における表示行為のように、承認の効力に関係のある行為ではない。知事は農地買収計画について府委員会で承認の議決があつて、これを知つたならば、その買収計画にもとずいて直ちに買収処分を行うことができる。場合によつては、承認の議決が村委員会に通知される前であつても、買収処分を行うことが事実上できれば、これを行つても少しも違法ではない。

本件買収計画について、大阪府農地委員会が承認の議決をしたことは当事者間に争のないところであり、成立に争のない甲第一号証(議事録)により、その承認の議決は、原告等の訴願に対し同委員会が裁決の議決をした後に行われたことが明らかである。原告等がその承認を違法と主張するところがすべて理由のないことは以上にのべたところで明らかであり、右買収計画の承認は、適法に行われたものといわねばならない。

(四) 本件買収地について大阪府知事が被告委員会の上記買収計画により原告等に買収令書を交付して、買収処分を行つたことは当事者間に争がなく、その買収令書(本件買収令書)に自作法第九条第一項に掲げた事項の記載があつたことは、原告等もその主張の間においてみとめているところである。

原告等が右の本件買収処分を違法とする理由について論述するところは、買収処分の効力についての一般的なそしてまた仮定的な法律論と、本件買収処分についての具体的な瑕疵の指摘との区別が明らかでないが、(1) 買収令書に表示された買収要項が買収計画の内容に一致しない場合および(2) 買収令書に誤記違算がある場合に、買収令書が無効であるとの一般的な法律論の形をとつた主張についていうと、本件買収令書について、その買収計画との不一致の点なり、誤記違算の点の具体的な主張がなく、その立証もない。買収令書は原告等に交付されたものであるから、原告等こそ、それらの点を具体的に指摘し立証することが容易な立場にありながら、ながい問口頭弁論をつずけてきたけれども、その間その主張も立証もなかつたこと、および、上記原告等の主張が、謄写版ずりの準備書面にもとずいて陳述され、本件のほかに当裁判所に原告等訴訟代理人を代理人として繋属する実に多くの農地買収処分不服の訴訟において、原告等訴訟代理人が右と全く同一内容の準備書面を提出していること(当裁判所に顕著である)、弁論の全趣旨にあらわれたこれらの事情から判断して、本件買収令書には、実は、原告等の論述しているような右の欠点はなかつたものとみとめるのが相当であると考える。

本件買収令書の交付が、買収計画についての大阪府農地委員会の承認の議決があつた後になされたことは、当事者間に争がない。原告等は買収計画の承認は承認書が村委員会に到達したとき効力を発生し、その効力発生前になされた買収処分は無効であるとの趣旨の主張をし、大阪府農地委員会が右の承認について承認書という文書をつくつて被告委員会に送付したことは被告等もみとめるところであるが、これは、承認の通知の意味をもつにすぎないこと、またその時期が、買収の時期の後であろうが、買収処分の後であろうが、これによつて買収処分の効力には少しも影響のないことは前にのべた。

また、本件収買処分が、買収計画に定められ従つて買収令書に記載された買収の時期の後になされたことは、被告等のみとめるところである。買収計画は買収の効果が発生する時期として買収の時期を定めており、買収の効果は買収処分がなければ発生しないが、買収処分が、買収の時期の後になされても、その効果を処分前の買収の時期まで遡つて発生させることは可能であり、とくにこれを禁じた趣旨の規定もなく、これによつて処分の効果を受ける者の権利を不当に侵害しないかぎり、違法ではない。買収計画は一般に公告され、これによつて買収処分の行われることが、予告されているのであるから、買収処分が買収の時期から多少おくれて行われたとしても、処分の効果を受ける者の権利を不当に侵害するとは考えられない。従つて、買収の時期の後に行われた本件買収処分もその点を違法ということはできない。

原告等が本件買収処分についてその違法を主張するところはすべて理由がなく、本件買収処分は適法に行われたといわねばならない。

(五) なお、大阪府農地委員会の昭和二二年六月三〇日における原告等の訴願に対する裁決および前記農地買収計画の承認の議決が、当日の会議に出席した委員中、第二号委員すなわち農地調整法第一五条の二第三項第二号の区分に属する委員(地主層の委員)五名が全部退席した後、その階層の委員が一人もいないところで、行われたことは、前記甲第一号証(議事録)によつて明らかである。

しかし、府委員会の会議は、農地調整法第一五条の一一および一五(当時の条文番号)により、定員の過半数の委員が出席すれば開くことができるのであつて、当時の農地調整法施行令第三一条第四三条により、同法第一五条の二第三項各号の区分(階層)の何れかの一につき委員なきときは会議を開くことができないとされてはいるが、それは、ある階層の委員が全部欠員になつた場合のことで、委員がいても会議に出席しなかつた場合の規定でないことは明らかである。成立に争のない甲第二号証(議事規則)によれば、大阪府農地委員会が昭和二二年三月二二日に定めた同委員の議事規則第五条に、「委員会は左の各号の一に該当する場合には会議を開くことができない。(1) 定員の過半数に当る委員が出席しないとき。(2) 一の階層について委員がいないとき(農地調整法施行令第四三条において準用する第三一条但書の規定により特別の事由があるものとして農林大臣の認可を受けた場合を除く)」との規定があるが、これは上記農地調整法第一五条の一一および一五、上記農地調整法施行令第三一条第四三条に規定するところをくり返したにすぎないこと、条文の対比から明らかであり、また真正に成立したとみとめられる乙第一六号証の一、二(証人岩田渉の訊問調書)の中に、同委員の委員であり会長代理をつとめていた岩田渉の証言として記載されているところから判断しても、少しも疑のないところである。

上記甲第一号証によれば、上記議決の際上記退席委員を除いても、なお過半数の委員が出席していたことは明らかであるから、会議は適法に成立していたものであり、議決にその点の違法はない。

六、以上により、本件買収地についての被告委員会の買収計画、その公告、異議申立に対する決定、大阪府農地委員会の訴願に対する裁決および買収計画についての承認、大阪府知事の買収処分はすべて適法に行われたとみとむべきこと明らかであつて、右買収計画の取消および右買収計画、異議申立に対する決定、訴願に対する裁決および買収処分の無効確認をもとめる原告等の本訴請求はすべて理由がないといわねばならない。

七、よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文の通り判決する。

〈物件表 省略〉

(裁判官 山下朝一 鈴木敏夫 萩原寿雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例